長いこと音楽やってると、亡くなっちゃうバンドマンも当然いるわけで、すごく親しかった人から、そうでもなかった人もふくめて生きてた頃の笑顔がいくつもいくつも、両手じゃ数えきれないくらい思い浮かぶ。
三隅健くんもそんなひとりだ。
彼と出会ったのは、ラウンジサウンズだった。
ゴールデンブラザーズというバンドの作詞作曲、そしてギタリスト。
ボーカルとベースは彼の弟で、ドラムは彼の奥さんだった。
つまり、3兄弟+奥さんでやってるバンドだったのだ。
その編成にも驚いたけど、もっと驚いたのはその夜が結成10年目にして初ライブだったということ。しかも信じられないくらいヘタクソで、まるで中学生が初めて組んだバンドみたいなのに、メチャクチャかっこ良かったってこと、衝撃的だった。
すっかり気に入ってラウンジサウンズには頻繁に出るようになる。何度目かの出演のとき、健くんは漫画家志望だと話してくれて、ポストカードを集めたような自作の本をくれた。俺も昔はずーっと漫画家を目指していたので、なんだか嬉しかったし、「いま、雑誌に応募するための漫画を描いてるんです」って健くんは言っていた。
それからしばらくした12月の終わり頃に、健くんが亡くなったという訃報が届く。
俺は当時「ラウンジサウンズレディオ」というラジオ番組を持っていたので、訃報を聞いたその日に、ラジオでゴールデンブラザーズの曲を流した。しんしんと雪が降っていた。
ゴールデンブラザーズはその後、新しいメンバーと再び活動を再開する。
健くんのお母さんからは、お酒やとん足がたびたび我が家に届くようになった。
お母さんは大牟田で「やきとり二番」というお店を繁盛させており、そこで焼鳥を焼いているのがゴールデンブラザーズの兄弟だったりするのだ。
お母さんから届くお手紙には、あの日ラジオで流してくれたことが本当に嬉しかったと、いつも書いてある。
すごいことに、あのとき描いてた漫画は小学館のIKKI新人賞を受賞し【ムルチ 〜三隅健作品集〜】というタイトルで単行本化された。ほんとうにピュアで瑞々しい素敵な漫画だなと思った。
作品の中に出てくる「すごいバランスで生きてんのよ、ほんときせきだと思わない?」ってセリフには深く共感を覚え、以後、自分の人生に於いて、たびたび頭に思い浮かぶ言葉となった。
そんな三隅健くんのたった一日限りの個展が福岡で開かれる。
今週の日曜日だ。
たくさんの人が観に行ってくれたらなと思う。
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一日だけの個展『ムルチ』三隅健作品集
11/16(日)@ギャラリー天神 アートフレンズ
福岡市中央区天神3-3-5 3F(1F 明太子のやまや)
TEL 092-681-3559
10:00~19:00
入場無料
● 小学館全国発売「ムルチ」含む総数50点のギャラリー展
ワイン紳士 マナブコ バケモノ青年など15点の未発表の物語
〜34年間の遺作品展〜
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